※この小説はフィクションで、実在の人物・団体類などとは一切関係ございません。ご感想は、 Eメールでどうぞ。

アリーナ恐怖の調理実習


「どりゃ〜!!!」
今日もサントハイム城のとある一室で元気な女の子の声が響くと同時に、
床に設置された大木が割れる音がする。
名はアリーナ。サントハイム第一王女である。
彼女は一国の跡取りだというのにとてもおてんばで、
自分でもそれを自覚しているのか最強の武道家になろうと日夜特訓しているのだ。
だが今でさえもその力は国一番で彼女の右に出るものはいない。
そんな彼女が料理などという性に合わないことをしたのは、
つい1時間後なのであるー。
 
「姫さま!なぜいつもそのようなことばかりしていらっしゃるのじゃ。
こともこのサントハイムと跡取りじゃというのに…。」
アリーナの教育係、ブライだ。彼はもうかなりの年なのに、まだまだ
どんどん魔法を覚えていくというつわものだ。そして、
「姫さま〜。これ以上我々を心配させないでください〜。」
クリフト、アリーナと年はあまり違わないが、これでも神官なのだ。
彼はアリーナにはかなわないのだが、なんだかんだいってアリーナの良き
おさえやくになっている。
「そうじゃ!姫、女性らしく料理をされたらどうじゃ?きっと気が
紛れると思うのじゃが…。どうかの?」
ブライがさらに大木を粉々にしようとする彼女をおさえていった。
「え〜、料理?んー…ま、初めてだし、おもしろそ。
よっしゃ、あたしやるわ!クリフト、早く台所に連れていって!」
「え…、は、はい!かしこまりました。さ、姫さまこちらへ。」
ブライはクリフトのほうを見て、Vサインを出した。
その後なにが起ころうとも知らずに…。
 
「じゃ、じゃあ簡単で基本的な卵焼きを作りましょう。」
召し使いがいった。そう、ここは台所のなか。
ブライとクリフトが見守る中、アリーナは料理初挑戦!
そしてなんと出来上がりにはアリーナの父こと国王がやってきて
様子を見、そして試食するのだ!これにはみんなもうかうかしてはいられない。
「まず卵を2つに割って、かきまわし…。あっ!」
話を最後まできかなかった彼女は、卵をボールのなかにたたきつぶし、
カラごと混ぜてしまっていた。
「えへへ、しっぱ〜い。テレッ。」
ぺロッと舌を出し再挑戦。…と今度はグチャッ。
手でひねりつぶしてしまった。
「あの、姫さま、私がお手本を見せますので…それにしたがって下さい。」
「はいは〜い。」
召し使いが卵を見事に割った後、アリーナが割ることになった。
ぱかっ。うまく…できたのだが、彼女はいっしょにカラも入れてしまったのだ。
「え?いれるんじゃなかったの?」
本当に知らなかったらしい。彼女は、卵焼きはカラも入れて作るものだと思っていたのだ。
「は〜。先がおもいやられる…。」
クリフトはアリーナの様子を見ながら誰ともなく毒づいた。
 
「ぎゃ〜!なんでこれヌメヌメするぅ〜。どうにかしてぇ!」
使用した卵7個。時間にしておよそ1時間。それどもまだ焼く所までいってない。
ようやく油をひく所だ。だがあやまって油をさわってしまったアリーナ。
急いで水で洗い落とそうとしたが、最後のヌメヌメまではとれない。
「…姫さま、油は温かいお湯でとるんですよ。」
召し使いが疲れ果てたようにいう。彼女はアリーナにここまでのステップは
全て細かく教えてしまったので、もう見ているほかはない。
「オッケー。ふう、すっきりした。」
「どうするのじゃ、王様が来るまであと3時間しかないんじゃよ。」
ブライがおろおろしながらいう。
「だ〜いじょうぶ!それまでには間に合うって!」
…アリーナはあくまでのんきだ。
 
そしてかれこれ2時間がすぎ、使用した卵も1ダースを超えた。
そして今現在は…焼く所だ。
もうすでに召し使いは2人かわっている。
ただブライとクリフトはたえずアリーナについて彼女を見守っている。
「姫〜、あと1時間きりましたよ〜。もう時間がありません!」
クリフトがたまりかねて口を開いた。
「そおねー。ちょっとやばいかな?ま、できなかったらいいじゃん。」
「そうはいきませぬ。王様は姫の女性的なことを見るのをたいそう楽しみにしていらっしゃる。」
「え〜、もうめんどくなっちった。あたしにゃやっぱ木割るのが似合ってるよ。」
「ですが姫…。」
クリフトが口を開きかけたそのとき!
 
「お〜い。アリーナの料理はまだかえ?」
王様の声だ。はっと時計を見やるとあと30分。
20分近く無駄話していたことになる。
「どどどどどど、どーしよー!」
「ま、まだ時間じゃありません王様、あと30分待って下さい。」
「もう待てんぞーここを開けい、ブライ。」
「わわわわわわ、わー!ちょっとまって…きゃ〜!」
「うわ〜!!」
ゴトン…コロコロ、ドンガラガッシャーン!ピシャーン!ゴン!
「た〜〜〜っ。」
ガラスは割れるわボールは転がるわ卵はふりかかるわ…
3人はグチャグチャになって疲れ果てた。
 
「もう、なにをやっている、騒がしい。」
…がらっ…
「………………………。」
両者の間に沈黙が走る。
「なんじゃお前達4時間の間こんなことをしておったんかーー!」
「きゃ〜!」
「台所もめちゃくちゃにしおって、その上卵もこんなにむだにしおって…。」
「ち、ちがうんです〜!」
「問答無用!」
ガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミ…!
そしてその後は全体的にどうなったかは想像にお任せするしよう。
 
次の日ー。
「姫さま〜。」
「いやよ!私はもうあんなことまっぴら!女らしいことはもうこりごり!」
彼女は以前にまして家事が嫌いになりましたとさ。


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